ビジネスで相手を納得させる交渉術と具体的なテクニック
ビジネスにおける交渉術
世の中には、交渉が得意な人もいればそうでない人もいます。日常生活においては、交渉が上手にできると得をすることも多々あるでしょう。ビジネスの現場でも、あらゆる交渉が日々繰り広げられています。交渉術を身につけることで、仕事で高い成果を生み出し、成功者の一員になることも可能なのです。
ビジネスシーンでさらなる成長を遂げるためには、交渉術を押さえておくことが賢明といえます。
交渉を行う際に重要なことは、構造を理解することです。交渉の相手や争点と、話がまとまる可能性、利害関係などが、交渉の構造になります。また、相手の主張にどのように対応するか、こちらの主張に対する相手の対応はどのようになるかなど、交渉のプロセスを考えることも大切です。
ビジネスにおいては、交渉後も相手との関係性を続けることが基本となります。そのため、互いにwin-winとなる妥結点を探ることがポイントといえます。お互いの利害が一致するか、あるいは全体の利益が最も高いところでの交渉成立を目指すべきなのです。
ビジネスで交渉術を試す前に心得るべき5つのポイント
交渉は相手とのコミュニケーションの一つに過ぎません。つまり、交渉を行う上で、コミュニケーション力は必須のスキルとなります。とはいえ、有名な交渉術は相手も知っている可能性が高いため、交渉術ばかりを重視するのもキケンです。コミュニケーションをとる中で、適切な交渉術を選択し、話の流れに沿って自然に交渉を進められるのが理想的といえます。
実際に交渉術を使う、あるいは学ぶ前に、以下の5つのポイントを押さえておきましょう。
- 互いがwin-winの関係となる交渉を目指す
- 信頼関係なくして、交渉成立はあり得ない
- 大替案や選択肢を増やすなど、徹底的に準備を行う
- 人間心理を十分に理解する
- さまざまな視点での交渉を心がける
交渉のスタイルには、「配分型交渉」と「統合型交渉」がありますが、win-winの交渉を可能にするのは、後者の「統合型交渉」です。
win-winの交渉術で目標を達成するには、交渉相手と信頼関係が築けているかにかかっています。自分や相手、そして全体を客観的に捉えられることも重要なポイントです。
ビジネスでの交渉術をうまく展開するには事前準備が重要
交渉を行う上で、話の切り出し方や条件の伝え方といった部分で悩むことは多いでしょう。また、提案に対して相手が聞く耳を持たなかったり、意見が一致しなかったりした場合に、どう対処すべきかなど、不安もつきません。
交渉で大切なのは、事前準備です。徹底して事前準備を行うことで、スムーズな交渉ができるだけでなく、相手の戦術に惑わされなくなる、雰囲気に流されて譲歩する可能性が少なくなるなど、さまざまなメリットがあります。
効果的な事前準備の方法に「5ステップ・アプローチ」があります。一つずつ段階を踏んでいくことで、細部まで目を向けられ、さらに全体を俯瞰できる方法です。
「5ステップ・アプローチ」の方法は、以下の5つになります。
【ステップ1】状況を把握する
自分に不利な状況や不愉快な出来事は、誰しも受け入れ難いものです。しかし、不都合から目を背け、深く考えずに対策を立てても、成果が得られる確率は限りなく低いでしょう。
ビジネスの交渉の場においても同様のことがいえます。冷静で客観的な視点で、状況の把握や分析を行うことが大切です。
【ステップ2】ミッションを確認する
ここでの「ミッション」は、交渉の目的、あるいは妥結によって解決したい最終的なゴールはどこかといったイメージを指します。
例えば営業ツールの一つとして、企業がタブレット端末の導入を検討している場合。1台導入するのにかかるコストを、15,000円と想定します。この場合、タブレット端末を15,000円で購入することがミッションではありません。タブレット端末の導入後、組織をどう効率化できるかということに意識が向いているはずです。つまり、資料を紙に印刷するコストの削減、業務の効率化を図ることで、売り上げアップにつなげる、といったことがミッションになります。しかし、多くの場合、タブレット端末を安く購入することばかりに目を向けがちです。
ミッションの確認は、本来実現したい目的を果たすために欠かせないステップです。
【ステップ3】自分の強みを見つける
win-winの交渉が成功したと言える状態は、互いの利益が反映されていて、かつ最大限の自分の利益も反映されている場合です。その状態へ持っていくには、新しい条件や選択肢を設け、双方の意見が合致する点を見定め、何かしらの利益と交換で条件を変更するという交渉を繰り返し行っていく必要があります。
その核心となるのが、「選択肢の形成」です。
選択肢を形成するには、自分の強みを見つけることがポイントとなります。なるべく多くの強みを用意することが肝心です。
ビジネスの交渉では、自分の強みが武器となります。交渉成立につなげられるかは、どこまで自分の強みを使いこなせるかにかかっています。そのため、事前準備として自分の強みを、明確にする必要があります。
【ステップ4】方向性を決める
交渉の準備を行う際に、多くの人は金額について考え始めます。しかし、ビジネスの交渉においては、自分の利益を最大化できるかが最終的な目的となるため、金額などの条件を決める前に、大きな方向性を決定することが大切です。
ステップ2でのミッションを踏まえ、協議事項の特定、相手への条件、譲歩の最低ラインなどの方向性を決めていきましょう。方向性を決める際にも、一つひとつステップを踏むことが重要です。
【ステップ5】合意が得られないケースを想定する
最後に、万が一交渉が成立しなかった場合の、大替案を考えておく必要があります。これを「Best Alternative to a Negotiated Agreement」(BATNA)といいます。
「タブレット端末」の例でいうと、相見積もりを取ることやタブレット端末の導入を見合わせることなどが「BATNA」となります。
ただ、全ての交渉で大替案が見つかるわけでもありません。事前に「BATNA」を考え、強化することが大切です。
また、交渉決裂というケースも考慮し、その対応策として「BATNA」を用意しておくことで、交渉成立につながる確率も高くなります。
ビジネスにおける交渉術の具体的テクニック
実際の交渉では、相手の心理を読み取り、うまく利用することも交渉成立へつなげるポイントになります。人の心理を意図的に動かす交渉術を、効果的に使用することで、大きな利益を得ることも可能です。
まずは、以下の交渉術について理解しておきましょう。
ビジネスでの交渉術を成功に導く「フレーミング」
フレームは「枠」のことです。人の思考に何らかの「枠」を設けさせ、特定の方向にものの見方を誘導させることを「フレーミング」といいます。
例えば、10万円の掃除機を売ろうとする場合、提示価格のまま「10万円です」というのと、「2年間使えば1日130円ちょっとです」というのでは、後者の方が断然お得に感じるでしょう。
このように、本質的には同じことを指している場合でも、フレーミングのされ方で印象が変わるのです。
ビジネスで交渉術を使う際には、相手側が条件を飲みやすいような、フレーミングをすることがポイントになります。
フレーミングは、相手の意思決定やモチベーションにも影響を与えます。例えば、成功率40%のプロジェクトを実行したいという場合、「失敗の確率が1.5倍も高い」というのと、「イチローの打率より明らかに高い」というのでは、後者の方が成功しやすく感じ、モチベーションも上がるでしょう。
以下で解説する「アンカリング」や「ハロー効果」などの概念・手法には、このフレーミングが用いられます。
相手に承諾して欲しいときの交渉術
ドアインザフェイス
初めに大きな要求を提示して、断られた後に小さな要求をすると、相手の承諾が得やすくなるという、心理学に基づいた交渉テクニックです。つまり、この「小さな要求」が本命でなければなりません。
ビジネスでこの交渉術「ドアインザフェイス」を成功させるには、最初に示す「大きな要求」で、確実に相手に断ってもらうことがポイントです。
人間には、一旦要求を断ると、その罪悪感から無意識のうちに「次の要求は条件次第で飲んであげても良いかな」と思ってしまう性質があります。
例えば、自社が提供するサービスに「高額のAプラン」と「リーズナブルなBプラン」がある場合、まず「高額のAプラン」をすすめるのが「ドアインザフェイス」の手法です。
フットインザドア
「ドアインザフェイス」と同様に心理学に基づいた交渉術で、初めに小さな要求を提示し、承諾してもらうことで、次に提示する本命の要求も承諾してもらいやすくなるという手法です。
「フットインザドア」が交渉術で効果を発揮できるのは、心理学の一つである「一貫性の法則」が関係しているためです。
「一貫性の法則」は、自分の行動や態度、信念などを貫き通したいという、人間の心理的な傾向を表します。初めの要求を飲んだ場合、その態度を一貫させようとする心理が働くため、次の要求も受け入れてしまう傾向があるのです。
「フットインザドア」は、テレアポや購入するかどうか迷っている顧客に対して、高い効果を発揮します。例えば、営業のテレアポでは「1分で良いのでお時間いただけますか?」、購入を迷っている相手には「ご試着だけでもしてみますか?」というふうに活用できます。
イエスセット
「フットインザドア」と同様に、「一貫性の法則」が関わっている交渉術です。本命の質問を繰り出す前に、必ず「イエス」と答えると予測できる質問を繰り返します。そうして「イエス」を積み重ねることで、本命の質問にも「イエス」と答えてもらいやすくなるのです。
例えば、「暑いですね」「こんなに暑いと肌の露出も増えますよね」「そんな時、スラリとした体に仕上がっていたら素敵ですよね」「エステの無料体験にご興味ありませんか?」という具合に、確実に「イエス」をもらえる質問を重ね、最後に本命の質問で「イエス」を引き出しやすくします。
相手との信頼関係を築きたいときの交渉術
両面提示
自社商材を売り込む際に、メリットあるいはデメリットのどちらか一方だけを伝えることを「片面提示」、両方の面を伝えることを「両面提示」といいます。
顧客は、商品やサービスを購入するかどうかの決定の際に、メリットとデメリット、両方の側面から検討します。そのため、ビジネスにおける交渉術では「片面提示」よりも、「両面提示」の方が有効とされています。
自らデメリットを伝えることで、納得感を得やすい交渉ができるだけでなく、顧客からの信頼も得やすくなります。
ハロー効果
心理学では、一つの特徴が他の要素の評価に対しても影響を与えることを、「ハロー効果」といいます。
例えば、「某有名大学卒の帰国子女」と聞くと、「仕事ができそう」とか「一緒に仕事しづらい感じがする」、「性格が良さそう」など、さまざまなイメージを抱くでしょう。しかし、「某有名大学卒の帰国子女」ということと、ビジネスパーソンとしての力量や性格は、本来関係のないことです。
交渉の際に「ハロー効果」を利用し、交渉相手に信頼できる相手と思わせられれば、多少のミスや他の弱点には目をつぶってくれる可能性が高くなり、交渉を有利に進めやすくなります。
価格・サービスを魅力的にみせたいときの交渉術
アンカリング
セール品などを購入する際、値引き前の値段が書かれてあると、得した気分になります。これを「アンカリング効果」といいます。「アンカリング」は、相手に価格を提示する際に、活用できる交渉術です。
「アンカー」とは、自分が基準とする価格のイメージです。つまり、「アンカリング」とは、最初に伝えられた条件が「アンカー」となって、その後の判断に影響を与えるというもの。
例えば、スニーカーのセールで価格を9,900円と提示する場合。元値の19,800円を一緒に表示させることで、値引き前の価格がアンカーとなり、9,900円という価格がより安くお得に感じられるのです。
また、自社のサービスが安さを強みとしている場合、競合他社の価格を引き合いに出すことで他社の価格がアンカーとなり、自社のサービスの強みをより際立たせられます。
ビジネスでの交渉術をより学びたい方へ
上記で紹介した手法のほかにも、相手の承諾が得やすくなる、さまざまな交渉テクニックがあります。しかし、全ての交渉術を実践するのは大変です。自分の課題に合わせて、必要な交渉術を取り入れてみましょう。
交渉術に関して、もっと詳細な内容を学びたい、効率よく学びたいという方には、ビジネススクールで専門的に学ぶのがおすすめです。
自分の可能性を広げる「MBA」を学ぶ
幅広いビジネススキルを学べることはもちろん、年収アップや転職にも有利になる「MBA」。
当サイトでは、名古屋でMBAを取得できる2校「グロービス経営大学」と「名古屋商科大学ビジネススクール」を徹底比較しています。
学べる内容やスクール選びのポイント、MBAを取得するメリットなどを、ぜひチェックしてください。